私が復帰してるTRPGのオンラインサークルは、一度参加人数が10人を割ったことがある。
櫛の歯が抜けるようにというのは、まさにこのことをいうのだろう。
かつて、百人規模を誇った数も昔の話。流出する参加者をとどめる術もなく、彼女がサークルの代表になった時は、ヒトケタにまで陥った。
廃れたサークルを立て直す。誰もが無理と思ったことを、彼女はあきらめずにコツコツと始めた。
彼女の行ったことは、何と言うことはない。
新しい人が楽しく遊べる環境を作るということ。
無駄なルールは撤廃し、極力、参加者の参加意識を高めていくこと。
たとえば、交流の形が具体的に見えるように、かつて撤去されたcgiチャットを復活。
掲示板に新規の人が挨拶文を書いたら、必ず歓迎のコメントを入れ、
参加するには何をどうしたら良いかを、丁寧に誘導したこと。
参加者同士でトラブルが遭った時は、基本当人同士で話をさせて、それでも納得しなければ、何時間でも話を聞いた。
敷居が高い、という壁を取りため、本当にコツコツと地味に続けていた。
「そんなことやって、何の得になるんだ」と、言われるようなことを。
その甲斐あって、ひとり、またひとりと新しい参加者が現れた。
そしてぽつり、ぽつりと、かつての参加者も戻ってきた。
新規参加者がシナリオを提案し、遊んだ人の『心から楽しんだ』経験が人を根付かせて。
いつしか、サークルはかつての賑わいを取り戻すまでに至った。
めでたし、めでたしで終わるはずの物語だが、現実はそうではなかった。
出戻った人の一部と、彼女の間に大きな軋轢が出来て。
半ば石持て追われるように、彼女は代表の座を退くことになった。
大きな理由として、ルールの整備がきちんと出来てないことに由来する。
表層的には。
しかし、内面では、彼女の作り上げたサークルの有り様に、大きな不満があったようだ。
彼女の提案する世界観は、一見するとファンシーであるが故に、ずいぶん馬鹿にされていたようだ。
一部の出戻り組は、新規参加者のことを「ぬるい」「甘い」「ゆとり」と嘲っていた。
「副代表と一緒になって、サークルを好き勝手牛耳ってる」と、心ない中傷を受け、「タメ口を聞かれる覚えはない、敬語を使え」と強要する人までいたという。
連日吊し上げのようにチャットで罵倒され、彼女は一時、「画面に向かうと手が震えて、勝手に涙が出る」所まで、追いつめられていた。
「時代遅れと、有能な幹部にも親族にも見捨てられ、傾いた老舗旅館。
愛着があると言う理由だけで残った一平社員が、苦労の末、新しい人々を呼び寄せるまでに立て直した。
しかし、かつての幹部や親族が戻り、『何も分かってない素人女が、好き勝手しやがって』と言いまくる」
それはまさしく、昼ドラを地で行く浅ましさだった。
もちろん、そうでないリターン者も大勢居る。
サークルの復活を素直に喜んで、新規参加者と一緒になって心から楽しんでる人の方が、むしろ多い。
が、かつて運営に参加していた一部参加者の発言力は極めて大きく。
その結果、ある意味彼らの望む通りに、自身の至らなさの責任を負って、彼女は代表を退いた。
めでたくなし、めでたくなし。
と終わるところが、でも、ここでもそうでは無かった。
あれからいろいろあって。
今の彼女は、その時のことを笑って語れるぐらいに、元気を取り戻している。
思いがけない人から感謝と労いのメールを受け取って、涙したことも話してくれた。
ファンシーと軽んじられた施設も、単なる思いつきだとそしられたイベントも
ルールブックを読みエラッタを確認し、Q&Aを確認し、練り込んで作ったのだと話してくれた。
苦しかったことも含めて、それを伝えれば良かったのにと思ったのだが、彼女はこう言うのだ。
「そう言う努力を見せるのって、なんか嫌なんだよね」と。
あそこはあくまで、『ゲームを楽しむ場所』。
時間を割てまで、楽しんでくれる人達を邪魔しちゃいけないんだ、と。
私は思うのだ。
彼女を批判していた人が、あの、参加人数ヒトケタの時に代表になった時に、続けると言う決断を下せただろうか。
下せたとしても、人を呼び、定着させることができただろうか、と。
出来なかったと、容易に断定できる。
何故なら、彼らは『賢い』。賢いが故に、真っ先に考えるのは、『潔い終わり方』。ダラダラみっともなく続けるよりは、すっぱり止めた方が誰の負担にならずにすむからだ。
政権を投げた福田さんや、打たれ弱く病気になってしまった阿倍さんのように、自身のプライドのために、終わりを選んだろう。
彼女の発想は、真逆だった。
自分が泥を被って、ただひたずら、他人を信じ、信じて貰える場を作ろうとしただけだ。
何の見返りもない場に、ただ、そこで遊びたい一念で、自分の全てを投げ出した、その『愚かさ』が。
今の盛況に繋がっている。