連ドラ『てっぱん』話しです。例によって、『感想』でも『レビュー』でもない『雑感』です。
今回は、『小早川のぞみ』と言うキャラクターについてひとくさりです。
番組後半から登場した『小早川のぞみ』と言う存在が面白いんです。作り手が、観る側に真剣勝負を挑んでる感じがして。
簡単に説明すると、年が明けて登場した女性で、昔のお店の常連さんだった人の娘さん。(ちなみに母親は主人公が勤めてた会社の、鰹節削りの職人さんの憧れの人)。父の顔を知らず、母も亡くなった彼女、結婚が決まったのを機に、母の想い出を探しにやってきたのが全ての始まりで。
仕事もうまく行き、職場の男性との結婚も決まってたのに、土壇場で相手から「家庭に入る人と結婚したい」と言われて、婚約破棄された上仕事も辞めざるを得なくなって。直後に妊娠が発覚。すったもんだの末に、子供を産む決意をし、お好み焼き屋を手伝いがてら田中家へ居候―――と言う状態。
どんな人かと言えば、『かわいげの無い人』。正直、浮いています。
一流企業でバリバリ仕事やってたキャリアウーマン。標準語を喋って会話に専門用語がさらりと出る嫌味な人で(笑)、しかも押しが強くて勝ち気で負けん気が強くて、登場したての時は、すべての人と衝突してました。
たった一人で今まで生きてきた人です。肩肘張って、自分の弱さも他人の甘えもはねつけて来たのもしょうがないことなのです。田中荘の住人に「一緒に住んでるから、即家族? 気持ち悪い」と反応するのは、普通なんですよね。
そんな訳で、嫌う人にはがっつり嫌われてます。
目障りで鬱陶しい。
上から目線で説教くさいし、エラソウで気に入らない。
この人さえいなければ、気持ちよく見れるのに。
なんで居るの?
木訥とした気の優しい村上家の長男といい雰囲気なのが、「無理やりくっつけようとしてる」とまた反感を買っているようで、気に入らないコールがひときわ(笑)。
十年前だったら、私も大嫌いだったタイプですわwwww
だけど、感情的にどうこうを差し引いても、『主人公が生まれる前の自分を投射する役割が登場し、それが視聴者からは感情的に受け入れがたいキャラクターである』という事実に、「ほー」と唸るばかりで。
『恋人に裏切られ、仕事も失い、たった一人で子供を産み育てなければならない』。並のドラマなら、悲壮な不幸感をたっぷりまぶしてくるのに、のぞみの勝ち気さが、ある意味それを感じさせない。キツイ口調やつっけんどんな態度に隠れて、実は細やかな気遣いが垣間見えるので、決して悪い人ではない。さりげなく主人公や祖母のサポートやヘルプが出来るあたり、本当は心根の優しい人であり、恩着せがましく主張しないのも、粋ではありますね。
ただ普通のドラマなら、もっと優しくかわいげのある人で、容易に感情移入できる人物にするでしょう。母親や娘の面影を投射しやすいように。でも、そうしなかった。物語の拵えとしては大冒険ですが、人が一個の人間として自立する上で、とても重要な部分である気がするのです。
シングルで子供を育てるのは、とても大変だと思う。しかし、大変だけど、『哀れなことなのか?』と問われると、そうではないはず。
『のぞみが人の善意を受け入れるのに大きな葛藤を見せたのは、とても大切なことだと思う。善意をありがたがって受け入れるばかりになると、『施し』になってしまう。そうなると、あかりや初音の気遣いが、とても『卑しいもの』になってしまうだろう』と、titterでつぶやいたんですが、これって親切や気遣いを行う者と行われる者との、『目線』の問題でもあるんですね。
もし、のぞみさんがか弱くて、一目で守ってあげたくなるキャラクター造形だったら…。視聴者の受けはいいけど、とても大切な、自立に関わる『何か』が間違ってしまう気がするのです。さらに、ここにのぞみの生い立ちや人格形成に関わる根っこが存在している気がして。のぞみの母の口癖だった「同情される人間になるな」が、端的に現していると思うのです。
ついでに言うと、『主人公の母親もシングルマザーで、主人公を産んで亡くなった』と言うシナリオのバックボーンがあっての、のぞみの配置なんですね。主人公はのぞみのお腹の子に、自分を重ね、主人公の祖母は亡き娘を重ねる。亡き人がどんな人なのか、徹底的に伏せられている製作方法(想い出のシーンがほとんどない!)が、二人の感情移入の邪魔立てならない点もなるほどなあと思うのです。
一番大切なのは「どんなに重ねても、のぞみは、主人公の母でも、主人公の祖母の娘でもない」事実の徹底。安易な感情移入を拒絶するのは、不愉快さを伴うことで、のぞみと言う一個の人格を持った女性であることを認識させる。そのことが、物語により深い問いかけを投げることができる、とも思うのです。
あと、真知子さんとも全く違うというのも重要。のぞみは、のぞみと言う一個の人間であると、とことん主張しているあたり、作り手も強情ですわ(笑)
『小早川のぞみ』と言うキャラクターは、『お気に入りの靴の中に紛れ込んだ、一粒の小石』です。憎まれ役であり、視聴者と言う『小姑』には気に入られない存在です。居心地の良い田中荘の中で、異色の存在で、しっかり馴染んでいますが、暖かな予定調和を壊して、波乱の予感をさせる存在でもあります。
てっぱん自体、感動シーンにどっぷり浸らせておきながら翌週では「ほんまに、それでいいん?」と混ぜっ返してくる作りなので、ある意味『象徴』とも言えるでしょう。
最終週では臨月を押して欽也に断りを言いに行くも陣痛が始まり。「大阪に帰らせてー」と半泣きにも帰らせてもらえず、最後の最後で強情の砦(陣痛で苦しむ姿=一番恥ずかしい姿=自分が一番見せたくない弱みを見せてしまうこと)を崩され、尾道で子供を産み、やっと欽也の思いを素直に受け入れられる人になりました。
それでも彼女の勝ち気な性格は変わらないでしょう。いい意味でも悪い意味でも裏表の無い人=嘘の着けない人だし、それが身勝手で周囲を散々振り回してる、と思われるリスクも充分認識したうえでの、振る舞いなのですから。ああいう性格なので、彼女は確かに友達は少ないかもしれません。だけど、「本当に自分のことを理解してくれる人が、たった一人いるだけで、それでいいと思う」タイプなんじゃないかな。自分の振る舞いが悪いことであるなら、「それは悪い!」と叱ってくれる人が居れば、受け入れる人でもあるのですし。
…鉄兄とは、いいケンカ友達になれそうな気がするなあ(笑)
『ステレオタイプではなく嫌われる人間を投入する』のは、作り手も相当勇気が要ったんじゃないかなあ。誰だって嫌われるのはイヤですから。ただ、観る側が離れるリスクを犯してまで『伝えたいことを伝えよう』とする、つまり『自分達の物語』を紡ごうとする制作側の腹のくくりっぷり…と言うか強情っぱりは、本当に苦笑するばかりです。