年に数回観る『起承転結のはっきりした夢』。ニュートン別冊『はやぶさ』を読んで仮眠を取ったせいか、こんな夢を見ました。
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彼女の家は、小高い丘の上の住宅街にある。黄色やオレンジと言った、淡い暖色のレンガと石畳に、家々の緑がみずみずしく映える景色は、ちょっと日本離れしたものだった。特に、彼女の家の脇にある路地の、小さな階段を下りた先に見える海の景色は、もうヨーロッパの景色そのものと言っても良いものだった。
眼下に広がる蒼い海。ゆるい三日月の縁のような湾にそって、街並みの屋根はビーズを並べたように輝いている。その街の向こうに見える、なだらかな若草色の山。稜線を越えて先にかすんで見えるのは、巨大なロケット―――。
彼女は、宇宙工学の研究員。毎朝自転車で坂を下り、あの山のふもとにある研究所へ通うのが日課だった。おりしも彼女が関わる宇宙探査機プロジェクトの打ち上げミッションが迫り、その準備で多忙を極めていた。
街中へ下り、信号待ちをしていると、歩道から「おーい」と呼び止められた。呼び主は若い男性。とある大手メーカーから研究所に出向していた。彼は主に軌道プログラムを担当している。彼女とも同い年で、二人は何かと気が合う仲間だった。
「遅刻しそうだ、乗せてくれ」。走りながら頼み込み、彼は返事も聞かずに後ろへ飛び乗る。危ういバランスをなんとか立て直して、―――発進しかけた車に轢かれそうになったりもして―――、彼女は二人分の体重がかかったペダルを、力強くこぎ出した。
その研究所は、広い公園の一角にあった。むろん、施設内の民間人は見学コース以外立入禁止ではあるが、一般公開日や街のイベントが行われる時、門は開け放たれ、人々は二重に張り巡らされた柵の内側にある世界最先端の宇宙科学を、目の当たりにすることができる。もっとも、その多くは職員自ら作る名物の『宇宙焼き』が目当てなのだろうけど。
家から三十分、彼を拾ってさらに三十分。彼女の自転車は職員専用の通用口を通過した。顔見知りの警備員に会釈をすると、「朝から元気だねえ」と気の良い返事が返ってくる。好きで乗せてるわけじゃないのに。口を尖らせると、「後で昼飯おごるから」と、背中越しに彼が笑う。
どうせお互い、打ち合わせやら準備やらで昼抜きじゃないの。お昼がおやつなんて、ザラだし。
唇を尖らせたまま、でも内心それほど怒ってない彼女の自転車は、緑あふれる中庭を突っ切っていった。
…と言うプロローグの、ジブリの新作映画で、その原作小説を私が書いたと言う夢。人物ラフや背景も出来上がって、見せてもらうと、主人公の女性やプロジェクトマネージャーの教授がちゃんとジブリキャラ(笑)。街並のタッチはイバラードっぽかったね。数カットのアニメラッシュも見せてもらいました。プロローグのシーンとか、何かの数式を難しい顔で紙に書いてるシーンとか。「そうかあ、ジブリも時代の波を読んで、こういう工学実験機なんて映画を作るんだなあ」と、感心してました、夢の中で(笑)
「でも、工学実験機が主人公って、地味でドラマを作るのは難しいんじゃないかな?」と疑問があったのですが、ジブリのスタッフの誰かが「ロボットアニメだって、タイトルはロボットの名前だけど、ロボットを動かす若者の人間模様が物語を作るでしょう? それと同じですよ。ロボットを動かす人々を描くことで、ロボットそのものも主人公になれるんです」と説明してくれて、すとんと腑に落ちました。
あともうひとつ、これはスゴイと我ながら思ったこと。主人公を始め、出てくる人達は理系プロフェッショナル。最先端も最先端の理論を駆使して、宇宙空間を航行する工学実験機をコントロールするんですが、私自身理数系はもうさっぱりわからんのです。だけど、なぜか分かるんです。
実際、幾度も数式を書き連ねるシーンを『私自身』が書いてるし、アニメのフィルムにもその描写が出てくる。私は分からないのに、私の中のもっと深い部分が『分かっている』。「何故なら、主人公達にとって必要なことだし、何より考えていることそのものが、彼女達はとても楽しい」ということが、とてもよく理解できていたのです。
彼女達が楽しいと思えることを、現すこと。この小説を書くために必要なものは、数式の勉強ではなく、このことを忘れないことなのかと得心したのでした。
いやあ、これジブリでアニメになったら観てみたいなあ(笑)
はやぶさ熱にあてられたアホの観た夢なんだけど!w